
株式投資の中でもローリスクと言われる投資方法をご存知でしょうか。その方法とはIPO投資のことです。
IPOとは「新規株式公開」と訳され、未上場企業が新規に株式を証券取引所に上場させることを指します。上場によって株価が上昇するケースが多く、事前に公募価格で入手できれば高い確率で利益が出るといわれています。
IPO株を購入するには証券会社の抽選に申し込み、当選する必要があります。しかし、当たるのは至難の業とされています。そこで今回は、IPO株の当選確率を上げるコツについて解説します。
IPOが当たらない理由
IPO株が当たらないと言われる理由は、大きく分けて次の2点があります。
- 需要と供給がアンバランスである
- 抽選方法が平等とは限らない
1については、日本取引所グループのデータによると、2020年度の新規上場(IPO)数は年間わずか102社しかありません。それぞれの企業が発行する株を100株単位で売買するわけですが、中には30万株以下、つまり当選本数がそもそも3000に満たないケースもあります。
逆に公開株数が多い企業もありますが、そういった企業のIPO株は初値が上がりにくいため、投資家は公開株数が少ないIPO株を欲しがる傾向にあります。つまり需要が少ないところに注文が殺到してしまうため、倍率が高くなります。
また、2についてはそもそも過去の取引実績が豊富だったり預かり資産が多かったりと、証券会社にとって優良な顧客に対してIPO株を優先的に当選させる仕組みをとっていることがあります。そういった仕組みを採用している証券会社を選んでしまうと、資金力や取引実績がない人はさらにIPO株が当選しづらくなります。
この2点の理由から、有力な投資先を狙う投資初心者からするとIPO株の当選確率は非常に低く感じられます。
IPOの当選確率はどれくらい?
IPO株を購入するには、そのIPOを取り扱う幹事の証券会社で購入権利を申し込む必要があります。供給される株式よりも注文数の方が多いため、ほぼ間違いなく抽選になります。証券会社がデータを公表していませんが、エイチームフィナジー代表取締役社長の林和樹氏によれば、「IPO株の当選確率は1~2%程度」といいます。
また、当選確率は申し込む銘柄や証券会社、申し込む人のステータスによっても大きく異なります。投資初心者がIPO株に当選できる可能性は通常、極めて低いのが実情です。
-なぜ当選確率が低いのか? IPOの当選確率が低い理由は、大きく以下の3点の要素が大きいからです。
- 株式投資の中でもリスクが非常に低い
- 公募割れしそうだったら買わないという選択肢がある
- 抽選に外れたら資金拘束がなくなり、すぐ資金が戻ってくるケースが多い
1については、近年やや状況が変わりつつあります。もともとIPOは公募時に株価が低めに見積もられていることが多く、公募価格よりも初値が下回る「公募割れ」のリスクはほとんどありませんでした。たとえば、2019年であればIPOした86社中公募割れは9社だけでした。
しかしコロナ禍の影響で、株式市場は不安定になりつつあります。日経新聞のIPOデータによると、2021年12月15~27日の間に上場した29社のうち、17社が公募割れでした。そのため、以前よりもIPOの見極めが重要になっています。
ただし、2にあるように、IPO株の購入権利を獲得しても「買わない」という選択ができます。そのため、公募割れの可能性が高いと思えば、当選後に辞退しても基本的には問題ありません。
ただし、証券会社によっては、当選を辞退、あるいは購入期間内に購入申込をしないとペナルティが発生します。そのペナルティ例が以下の通りです。
SMBC日興証券(イージートレード):1ヵ月間、新たにIPOの需要申告ができなくなり、抽選前の他IPOへの申し込みも無効になる。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券:1ヵ月間、新たにIPOの需要申告ができなくなり、抽選前の他IPOへの申し込みも取り消しになる。
岡三証券:新たにIPOの需要申告ができなくなる。なお、ペナルティの期間は明記なし。
こうした証券会社の場合は注意が必要ですが、それ以外は抽選に当たっても外れても、購入申込さえしなければノーリスクといえます。そのため、ローリスクかつハイリターンも期待できる株式投資として、多くの投資家から非常に人気があり、その分当選確率が低くなりがちです。
IPO株抽選の種類
IPO株の購入権利を得る方法は、基本的に次の3パターンのいずれかです。
- 完全平等抽選
- 優遇抽選
- 店頭配分
IPOの幹事を務める証券会社によってもやり方が異なるため、事前に当選確率の違いなどを確認しておきましょう。
完全平等抽選
完全平等抽選とは、その名の通り応募する口数や資金力の差による優遇措置がない抽選方法です。機械を使った自動抽選のため、1口応募しようと500口応募しようと、当選確率は変わりません。どれだけ多くの資本があっても、結果は運頼みになります。
これまでに取引実績がない株式投資初心者や資金が少ない個人投資家なら、完全平等抽選を採用している証券会社を選ぶとよいでしょう。IPO株の取り扱い実績が豊富(2020年度50件以上)で完全平等抽選の割合が全体の90~100%を占めるマネックス証券やSMBC日興証券が初心者にはおすすめです。
優遇抽選
証券会社によっては、たとえば下記のように条件が揃えばIPO株の抽選確率があがる優遇措置を受けられる場合があります。
- SBI証券:IPO株の抽選に外れると貯まる「チャレンジポイント」が多ければ当選確率が上がる
- 岡三オンライン証券:過去の取引実績に応じて、ステージに分けられる
- SBIネオトレード証券:売買代金等に応じて、ステージが設定される
岡三オンライン証券やSBIネオトレード証券で過去に取引を多数行っている場合、優遇抽選を活用すればIPO株の当選確率が上がります。したがって、ある程度資本力があり、実績も豊富な投資家は優遇抽選を活用するケースが多いです。
しかし、投資初心者であっても活用しやすい優遇抽選もあります。それが、SBI証券の「チャレンジポイント」制度です。
-SBIチャレンジポイントとは?
SBIチャレンジポイントとは、SBI証券のサイトで案内されている通り、IPO株の抽選に外れた回数に応じて付与されるポイント制度です。IPOチャレンジポイントは抽選申込を行う時に使うと、IPO株の当選確率が上がります。
そのため、投資初心者であっても、何度もチャレンジすればIPO株の抽選に落ちるたびにポイントが貯まり、どんどん当選しやすくなっていきます。当選した後に購入キャンセルしてもペナルティがないため、株式投資初心者でも申し込みやすい証券会社といえるでしょう。
店頭配分
店頭配分とは、リアル店舗がある証券会社限定の方法です。上得意になりそうな顧客や自社取引で何らかの損失が発生した顧客を優遇し、店頭の担当者の裁量でIPO株を配分します。優遇抽選とは異なり、優先度を決める明確な基準は公開されていません。
証券会社の担当者からの投資信託の売り込みなどが合わせて発生するケースがあるため、すでに仲のいい担当者がいる場合を除いて、あまりおすすめできない方法といえます。
IPO株の当選確率を上げる方法
通常の申し込み方法では非常に当選確率が低いIPO株。しかし実は、投資初心者でもIPO株の当選確率を上げるやり方がいくつかあります。IPO株の当選確率を上げる具体的な方法は以下の通りです。
- 主幹事実績が多い証券会社の口座を保有する
- ライバルが少ない穴場の証券会社を選ぶ
- 事前入金が不要な証券口座を開く
- 取扱銘柄数の多い証券会社を選ぶ
- 家族の証券口座を開く
それぞれの内容を具体的に解説していきます。
なるべく多くの証券口座から応募する
仮に1社のIPO株の当選確率が1%だとしても、応募の数を増やせば当選する確率は上がっていきます。つまり、IPO株の当選確率を上げたいのなら、応募数を増やすために証券会社の口座を複数開設すればよいわけです。
とはいえ、やみくもに証券会社の口座を開いても効率が悪くなります。どのような証券会社で口座を開設すればよいのか、選び方のポイントを説明します。
-事前入金が不要な証券口座を開く IPO株の当選確率を上げるためには、申込口座数を増やす必要があります。そのための手法の一つが、前もって入金する必要がない証券口座の開設です。
IPO株の抽選申込の際、証券会社によっては1社あたり数十万かかる事前入金が不要なケースがあります。そうすると、たとえばA社の口座からある銘柄に事前入金ありで申し込んだ後、さらにB社の口座から同じ銘柄にお金がなくても申し込めるわけです。
事前入金が不要な証券会社の代表例は、松井証券、SBIネオトレード証券、DMM.com証券があります。これらの3社は、当選後のキャンセルペナルティもないため、IPO株の当選確率を上げるのに役立ちます。
-家族の証券口座を開く IPO株の当選確率を上げるために口座数を増やす手法として、家族の証券口座を利用する方法があります。
たとえばAさんがB社ですでに口座を開設している場合、自分名義の口座をB社で増やすことは不可能です。しかし、Aさんの家族のCさんやDさんであれば、B社の口座をそれぞれの名義で作れます。もちろんCさんやDさんが自分の名義で口座開設をする必要があるものの、1世帯あたりの保有口座数が増えた分、1銘柄に申し込める数が増え、IPO株の当選確率も上がります。
また、SBI証券や楽天証券では未成年でも口座開設できるため、さらなる当選確率アップが期待できます。
-取扱銘柄数の多い証券会社 お目当てのIPO株の抽選に申し込みたくても、その証券会社で取り扱いがなければ意味がありません。投資先の選択肢を幅広く検討したいなら、取り扱い銘柄の多い証券会社を選ぶことで、株式投資の効率を高めることができます。公募割れの可能性が低そうな銘柄を検討しつつ、IPO株の応募回数をどんどん増やしていけば、その分当選確率も高まります。
中には、マネックス証券のように主幹事の実績はほとんどないが、取扱銘柄数は多いという証券会社もあります。このような証券会社の口座を持っておくと、IPO投資の当選確率をさらに高められます。
-ネット証券で口座を開く
ある程度歴史がある証券会社は、所有する証券口座の数が多く、その分IPO投資の競争率も高くなります。既存のお得意様を優遇するケースも多く、これからIPO株に応募したい投資初心者には不利です。
反面、ネット証券は割り当てられたIPO株の大半を平等抽選で配分するケースが多く、投資初心者でも運があれば当選できる仕組みになっています。
ネット証券であれば、自宅からオンラインで口座開設の手続きがすぐできるため、開設の手間が少ないという便利さも強みです。そのため複数の口座を用意する場合は、ネット証券をぜひ活用しましょう。
ライバルが少ない穴場の証券会社を選ぶ
ネット証券であっても、たとえばIPO株の取り扱い実績ナンバー1のSBI証券など、口座数が多い会社だとどうしてもライバルが多くなります。より有利な状況でIPO株の抽選に参加したいのであれば、あえて口座数の少ない振興の証券会社を選ぶのも手です。
LINE証券やauカブコム証券のように、口座開設数がこれから増えていくであろう比較的新しめのネット証券であれば、ライバルが少なく、当選確率も上がる可能性が高くなります。
しかし、新興のネット証券会社だとIPO株の取扱数が少なくなりがちです。そのため、すでに口座数の多い大手証券会社の口座と併用して、選択肢を増やしましょう。
主幹事実績が多い証券会社の口座を保有する
IPOの際、新規上場する企業は通常、主幹事を務める証券会社に、より多くの株式を割り当てる傾向があります。主幹事とは、新規公開で引受や販売を行う幹事のなかでも中心的な役割を担う証券会社のことを指します。総じて全体の80%程度の株式を引き受けるケースが大半のため、主幹事の証券会社に申し込むと、IPO株の当選確率をあげやすくなります。
主幹事になった実績が多い証券会社は、野村證券やSMBC日興証券などの大手に加え、最近ではSBI証券が目覚ましい成長を遂げています。
ここまで紹介してきたポイントを以下の表にまとめました。ぜひIPO株の当選確率を上げるために、どこの証券会社で口座を開くのかを検討する際の参考材料にしてください。
松井証券 | 野村證券 | SBIネオトレード証券 | SBI証券 | SMBC日興証券 | |
会社名 | 松井証券株式会社 | 野村證券株式会社 | 株式会社SBIネオトレード証券 | SMBC日興証券株式会社 | |
取扱銘柄数 (2020年) |
18社 | 41社 | 7社 | 85社 | 64社(2019年) |
主幹事数 | 0社 | 22社 | 0社 | 14社 | 16社 |
抽選方法 | 70%以上:完全平等抽選 | 10%:完全平等抽選 | 10%完全平等抽選 90%ステージ制抽選 |
60%:抽選 30%:IPOチャレンジポイントに基づく 10%:投資状況と適合性の原則に基づく |
90%:店頭完全平等抽選 10%:ネット完全平等抽選 (最大5%:優遇抽選) |
口座数 | 136万 | 534万 | 非公開 | 771万 | 370万 |
申込金 | 不要 | 不要 | 不要 | 必要 | 必要 |
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松井証券
松井証券の強みは、事前入金無しでIPO株の抽選を申し込める点です。事前入金が必要ないため、他の証券口座と併用して当選確率アップを狙いやすい証券会社といえます。資金は少なくてもIPO株の購入にチャレンジしたい人におすすめです。
50万円以下の株取引は手数料無料。かつネットバンク経由で資金を移動させやすいので、小規模な取引をしたい個人投資家には便利です。
取扱銘柄数(2020年) | 18社 |
主幹事数 | 0社 |
抽選方法 | 70%以上:完全平等抽選 |
口座数 | 136万 |
申込金 | 不要 |
野村證券
野村證券の最大のメリットは、業界トップクラスの主幹事数実績です。主幹事を務める証券会社が8割以上の株式を扱うケースが多いため、IPO株の当選確率を上げやすいです。
ネット配分の割合は少なめですが、完全平等抽選なので野村證券とあまり取引をした経験がない株式投資初心者でも運次第で当選できます。
取扱銘柄数(2020年) | 41社 |
主幹事数 | 22社 |
抽選方法 | 10%:完全平等抽選 |
口座数 | 534万 |
申込金 | 不要 |
大和証券
野村証券と同じく、大和証券の強みも IPOの主幹事数実績です。業界でも首位を競う実績のため、完全平等抽選の配分が少な目とはいえ、取り扱い銘柄も多く、使い勝手がよいです。今後IPO投資に力を入れていくなら、ぜひ使いたい証券会社といえます。
取扱銘柄数(2020年) | 44社 |
主幹事数 | 16社 |
抽選方法 | 10%:完全平等抽選 |
口座数 | 303万 |
申込金 | 必要 |
SBI証券
SBI証券の最大の強みは、先述したポイント制度です。IPO株の抽選にチャレンジし続ければ当選する可能性が高まっていくため、開設して損はありません。抽選方式は30%が完全抽選で、15%がポイント抽選に当たります。IPO株の取り扱いも多いため、早期に開設すべき証券会社です。
取扱銘柄数(2020年) | 85社 |
主幹事数 | 14社 |
抽選方法 | 60%:抽選 30%:IPOチャレンジポイントに基づく 10%:投資状況と適合性の原則に基づく |
口座数 | 771万 |
申込金 | 必要 |
SMBC日興証券
SMBC日興証券も主幹事を務めることが多く、ネット配分が10%とはいえ完全平等抽選のため、押さえておきたい証券会社です。当選確率が資金量の影響を受けない点は、初心者には魅力的です。IPO株の取り扱い数も多く、他の証券会社の口座と合わせても使いやすくなっています。
取扱銘柄数(2020年) | 64社(2019年) |
主幹事数 | 16社 |
抽選方法 | 90%:店頭完全平等抽選 10%:ネット完全平等抽選 (最大5%:優遇抽選) |
口座数 | 370万 |
申込金 | 必要 |
まとめ
IPO投資は証券会社選びさえ間違えなければローリスクで株式投資にチャレンジできます。チェックすべきポイントは、まず申込金が必要かどうか、そして購入後のキャンセルにペナルティが発生するかどうかです。これらの条件をまず確認してから、当選確率を高めるために応募口数を増やす工夫を行いましょう。
今回紹介したテクニックは、いずれも少しの手間だけでチャレンジできるものばかりです。ぜひ積極的にチャレンジして、IPO株の当選チャンスを手にしてください。
Q&A
IPO株の抽選申込によくある質問を以下にまとめました。ぜひ、証券会社を選ぶ前に、チェックしてみてください。
お金がなくても応募できるの?
手持ちの資金に余裕がない場合、松井証券や岡三オンラインなど、証券申込金が不要な証券会社を選びましょう。野村證券のように、申し込み金不要にもかかわらず、主幹事を務めている証券会社もあります。こういった証券会社を選べば、場合によっては事前入金が必要な証券会社を複数申し込むよりも当選確率を上げることができます。
当選後にはもちろん購入資金が必要ですが、時期的な問題で目途が立つならぜひチャレンジをおすすめします。
必ず儲かるの?
IPO投資は株式投資の一種のため、必ず儲かるという保証はありません。実際、特に2020年以降は社会不安を受け、公募割れのリスクが増加しています。ただし、それでも抽選申込だけであればキャンセル可能な点なども考えると、他の投資法よりはローリスクハイリターンといえます。
まずは、事前入金なしの証券会社からリスクゼロでIPO投資の感覚をつかんでみることをおすすめします。
当選確率はどのぐらい?
IPOの当選確率は、正確なデータはありませんが、1~2%程度といわれています。おおよそ、宝くじの6等程度の低い確率です。当選確率をあげるために、本記事内で紹介したコツを活用してみてください。