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(画像=milatas/stock.adobe.com)

日本の高校で、2022年度から「金融教育」が必修科目になります。その狙いや授業内容、課題について解説します。

目次

  1. 金融教育とは?
  2. 国によってアプローチが異なる
  3. 日本でも金融教育が必修科目に
  4. 具体的にどのような授業になるの?
  5. 今後の課題
  6. 親子で一緒に学ぶ重要性

金融教育とは?

近年、社会人として経済的に自立し、より豊かな人生を送る上で重要なスキルとして「金融リテラシー(Financial Literacy)」が注目を浴びています。

金融リテラシーとは、家計管理や資産形成などのお金に関する知識や情報を正しく理解し、適切に判断・活用できる能力のことです。金融庁は「最低限身に付けるべき金融リテラシー」として、以下の4つを挙げています。

1)家計管理
2)生活設計
3)金融知識・経済事情についての理解と適切な金融商品の利用選択
4)外部の知見の適切な活用

義務教育に金融リテラシーを導入する国も増えています。子どもの頃からお金の知識や情報を身近に感じさせることにより、金融リテラシーを効果的に高めることが狙いです。

国によってアプローチが異なる

すでに多くの国が金融教育に取り組んでいますが、アプローチの仕方は異なります。

金融教育先進国のフィンランドでは、「金融・起業家教育」の一環として金融リテラシーが初等~高等教育に組み込まれています。英国では5~14歳の「数学」と11~16歳の「市民教育(社会人としての役割への理解を促すための教育)」で、金融リテラシーについて学びます。

米国は州によってカリキュラムが異なりますが、いずれもパーソナルファイナンス(個人のお金の管理や運用)に重点を置いています。2020年時点で21州の高校で金融リテラシーが義務化され、25州の高校での経済学が必修科目に指定されています。

日本でも金融教育が必修科目に

「お金の話をするのはタブー」という考え方が根強く残る日本においても、2022年4月から本格的に子どもの金融教育がスタートします。高校の「家庭科」と「公共科」で、家計管理から資産管理まで幅広くお金の知識を学びます。

家庭科

学習指導要領が改正される前の指導では「家計管理」に重点が置かれていましたが、4月からは「資産形成」の重要性や「金融商品(株式・債券・投資信託など)およびサービス」を利用するメリット・デメリットについての指導も行われます。また、人生設計やリスク管理の要素も盛り込まれます。

公共科

「現代社会」の廃止に伴って、新たに設けられた科目です。「育成すべき資質・能力の三つの柱」を軸に、金融を含めた包括的な領域を「多角的に考察し公正に判断する力」を養うことが目的です。生徒は授業を通して、社会人の知識として基礎的な金融の仕組みを学びます。

学習指導要領の改訂に伴い、2021年度からは中学校においても金融リテラシーの向上を目的とした授業が始まっています。

具体的にどのような授業になるの?

親としては、具体的にどのような授業が行われるのかが気になるでしょう。

金融教育のフレームワークの一つに、金融広報中央委員会が発行している「金融教育プログラム」があります。これは金融教育を「生活設計・家計管理」「金融や経済の仕組み」「消費生活・金融トラブル防止」「キャリア教育」の4分野に分け、小学校低学年から高校生までの年齢に応じた目標を設定したものです。

小学校では体験的な学習などを介してお金の価値について、中学校ではお金に関する知識について、高校では金融商品・サービスの活用法について指導するなど、段階的にお金の知識を教えていきます。学校側は金融教育プログラムを参考にして、カリキュラムを組むことができます。

また、金融庁や証券会社などが金融教育を支援する取り組みとして、教員向けのセミナーやイベントを実施したり、中高生用の教材を開発・提供したりしています。このような支援ツールを活用した授業も行われるでしょう。

今後の課題

金融教育の義務化は、ポジティブな教育改革として受けとめられています。

日本トレンドリサーチが2022年1月に男女計1,250名を対象に実施した調査では、金融教育の必修化について 92.4%が「賛成」と回答しました。

一方で、以下のような問題が指摘されています。

家庭科の先生には荷が重い?

金融教育のカリキュラムや方法が標準化されていないため、学校側は独自の金融教育を実施する必要があります。金融教育を担当する教員は、生徒に教える上で十分な金融リテラシーを身に付けている必要がありますが、「家庭科の先生には荷が重いのではないか」「授業内容などに差が生じるのではないか」という声が上がっています。

前述の調査では、55.9%が金融の専門家であるファイナンシャルプランナーや経済産業省の職員、銀行員などの「外部の講師を採用すべき」と回答。「家庭科の先生が適任」と回答したのはわずか3.4%でした。実際のところ、金融教育の義務化に不安を覚える教員もいるようです。

学校側はこのような背景があることを念頭に置き、外部リソース(専門機関が提供している動画教材やeラーニング講座、金融庁職員による「出張授業」など)を有効活用するなど、ケースバイケースで適切な人材や教材を確保する必要があるでしょう。

効率的かつ楽しく学べる環境作り

「経済」「資産形成」「投資」といった言葉を聞くと、大人でも「難しい」と思う人もいるでしょう。ましてや子どもには、お金について学ぶことの楽しさや意義を感じ、積極的に授業に参加できる環境が必要です。

せっかくの金融教育が子どもに苦手意識を与えてしまわないように、体験学習やゲーム感覚で学べる教材を活用するなど、効果的かつ楽しく学べる工夫が必要になるでしょう。

親子で一緒に学ぶ重要性

子どもの学習意欲を向上させる上で重要なカギを握るのが、家庭内の教育環境です。

親が子どもと同じことに関心を持ち、それについてオープンに話し合ったり、学ぶ姿を示したりすることによって、子どもも自然に探究心を持つようになります。

大人でも知らない、あるいは正確に理解していない金融知識は意外とたくさんあります。子どもに質問されて困らないように、親子で一緒にお金の勉強をしてみてはいかがでしょうか。