
2022年の為替相場は円安が続いており、同年4月末には「1ドル=130円」を突破しました。円安は今後も続く可能性があり、1ドル=150円になると予想する専門家もいます。
円高や円安が進むと、投資信託にはどのような影響が出るのでしょうか。今回は円高・円安になったときの影響や、投資信託の円安対策について解説します。
目次
そもそも円安・円高とは?
円安・円高とは、他の外貨から見たときに「円の価値が高いか低いか」を表す経済用語です。相対的に円の価値が下がったときは円安、逆に価値が上がったときは円高になります。
○円安・円高の例
1ドル(米ドル)=100円のときを基準にすると、
円安:1ドルが100円を超えたとき(110円など)
円高:1ドルが100円を割ったとき(90円など)を表している。
また、ドルの価値が下がった状態は「ドル安」、逆に価値が上がった状態は「ドル高」と言われる。
円安・円高は2通貨間の関係を表すため、基準となる外貨は必ず正反対の動きをします。上記の例で言うと、円安の場合はドル高、円高のときにはドル安になります。ちなみに、1ドル=100円のような交換比率は「為替レート」と呼ばれており、このレートは世界の経済状況によって日々変動しています。
円安・円高が進むと投資信託はどうなる?
為替レートの変動は、投資信託を始めとした金融商品にも影響を及ぼします。ここからは円安と円高に分けて、投資信託への影響を分かりやすく解説します。
円安による影響
為替レートが円安方向に振れると、現金を含む円ベースの資産価値は減少し、外貨ベースの資産価値は増加します。したがって、投資信託には次のような影響が生じます。
◯円安による投資信託への影響
・日本円ベースの投資信託:相対的に見ると価値が下がる
・外貨建ての投資信託:円換算をすると価値が上がる
また、ドルに対して円安が進むと、多くの投資家は米国の資産に興味を持ち始めます。つまり、米国の投資信託を購入する層が増えるため、ドル建て銘柄の純資産額が伸びやすくなると考えられます。
円高による影響
円高による投資信託への影響は円安と逆になります。
◯円高による投資信託への影響
・日本円ベースの投資信託:相対的に見ると価値が上がる
・外貨建ての投資信託:円換算をすると価値が下がる
特に注意したいのは、為替レートのトレンドが転換しそうな時期に、外貨建ての投資信託を購入する場合です。例えば、ドル建ての投資信託を購入してから円高に切り替わると、パフォーマンス自体が好調であったとしても、為替差益だけで赤字になる可能性があります。
投資信託に限らず、外貨建ての金融商品ではこのような状況に陥ることがあります。長期間運用する場合であっても、最終的には日本円に戻すことになるため、外貨建ての商品は慎重に購入する必要があります。
本格的な円安時代に突入?日本や世界の現状
2022年に入ってから、日本は円安傾向にあります。その影響は海外にも及んでおり、特に日本との関わりが深い米国にはさまざまな影響が出ると考えられます。
ここからは日本と米国に分けて、それぞれの現状を紹介していきましょう。
日本は本格的なスタグフレーション状態に?
2022年に入ってから、日本ではさまざまなモノ・サービスが値上がりしています。
同年4月にIMF(国際通貨基金)が公表したデータによると、日本のインフレ率は2021年4月からの1年間で2.1%上昇しました。2022年6月現在でも値上げ傾向は続いており、しばらくはインフレが続くと見込まれています。
また、日本における1990年~2020年前後は、「失われた30年」と言われています。
このように、インフレと景気低迷が同時に起こる現象は「スタグフレーション」と呼ばれています。このまま新型コロナウイルスによる景気低迷が長引けば、本格的なスタグフレーションに突入するかもしれません。
米国市場にも円安の影響は及ぶ
ドル円為替レートとS&P500(※)の推移を比較すると、円安は米国市場にも影響を及ぼしていることが分かります。
(※)米国の代表的な500銘柄で構成される株価指数
▼過去5年間のドル円のチャート

▼過去5年間のS&P500のチャート

過去5年間の値動きを見ると、上記の2つのチャートは形状が似ています。細かい値動きは異なりますが、円安が進むほどS&P500も上昇傾向になっています。
その一因としては、個人投資家の動向が挙げられるでしょう。円安が進むと国内資産の価値が減少するため、個人投資家は海外の金融資産に目を向けます。その全てが米国株に投資するわけではありませんが、円安対策のためにドル建て商品に資産を逃がす投資家は多いと考えられます。
ただし、株式市場はさまざまな要因で変動するため、一概に円安だけが影響を及ぼしているわけではありません。
投資信託の円安対策とは?
ここからは、投資信託の円安対策について解説します。今後円安が進む場合と、現状の円安のまま推移する場合では、投資信託の円安対策は異なります。それぞれの円安対策について見ていきましょう。
今後円安が進む場合
これからさらに円安が進む可能性が高い場合は、円安を利用した資産形成を考えましょう。円安局面では外貨建て資産の価値が上昇するため、ドル建ての投資信託などを保有するだけで資産価値の上昇が期待できます。
外貨建ての投資信託には以下の2タイプがあり、それぞれ円安による影響が異なります。
◯外貨建て投資信託の種類
・為替ヘッジなし:為替レートの影響を大きく受ける銘柄
・為替ヘッジあり:為替レート変動のリスクを抑えやすい銘柄
円安の恩恵を受けたい場合は、「為替ヘッジなし」の商品を選びましょう。為替変動リスクは抱えますが、円安が進むほど基準価額も上昇するため、円安局面で大きいリターンを狙いやすくなります。
すでに円安に直面している場合
すでに円安に直面している場合は、いつトレンド転換が起きても対応できるように備えておく必要があります。いつ円高方向に切り替わるのかは分からないため、「為替ヘッジあり」の投資信託を選ぶことで、為替変動によるリスクを抑えるとよいでしょう。
円安時の投資信託で儲けるポイント
為替レートが円安で推移している状況では、以下のポイントに注意して投資信託を運用しましょう。
◯円安時の投資信託で儲けるポイント
・外貨建て商品を積極的に購入する
・NISAをうまく活用する
・国内銘柄もある程度は保有しておく
それぞれのポイントについて、分かりやすく解説します。
外貨建て商品を積極的に購入する
円安が進んでいる状況で円ベースの資産を持っていると、株式や投資信託、預貯金などの相対的な資産価値が下がります。そのため、円安が続く状況であれば、外貨建て商品の購入を検討してみましょう。投資信託の場合は、ドル建ての銘柄が主な選択肢になります。
◯ドル建て投資信託の例
・ブラックロック・スーパー・マネー・マーケット・ファンド
・ニッコウ・マネー・マーケット・ファンド
・ノムラ・グローバル・セレクト・トラスト
ドル建ての投資信託はインフレ対策だけではなく、リスクの分散先としても活用できます。
NISAをうまく活用する
NISA(ニーサ)とは、投資信託などを取引する個人投資家をサポートするために、金融庁が実施している税制優遇制度のことです。成人向けの制度としては「一般NISA」と「つみたてNISA」が実施されており、いずれも非課税投資枠内であれば全ての運用益が非課税になります。
項目 | 一般NISA | つみたてNISA |
---|---|---|
対象商品 | 上場株式、ETF、公募株式投信、REITなど | 金融庁の基準をクリアした投資信託 |
非課税の対象 | 譲渡金、分配金、配当金 | 譲渡金、配当金 |
節税効果 | 通常は、利益に対して20.315%課される税金がすべて免除される。 | |
非課税投資枠 | 年間120万円 | 年間40万円 |
非課税期間 | 最長5年間 | 最長20年間 |
買付方法 | 通常の買付、積立投資 | 積立投資のみ |
投資可能期間 | 2023年まで(※) | 2042年まで |
払出し制限 | なし |
NISAを使って円安対策をする場合は、運用先に「外国株(米国株・先進国株・新興国株)」が含まれている投資信託の運用を検討しましょう。ただし、前述の「為替ヘッジあり」を選ぶと円安の恩恵を受けられなくなるため、各銘柄の詳細は確認しておきましょう。
国内銘柄もある程度は保有しておく
投資信託は投資先の地域が海外よりも国内銘柄のほうのリスクが小さいとされています。
さらに投資先の中でも「株式」と「新興国」はリスクが高いため、リターンは小さくてもよいからリスクをとにかく抑えたい場合は、円安対策でもこれらの資産・地域に偏ることは望ましくありません。仮に新興国株がメインの投資信託を購入し、その直後に円高に振れるようなことがあれば、大きな損失につながる恐れがあります。
外国銘柄で円安対策をする場合であっても、ある程度は国内銘柄をポートフォリオに組み込んでおきましょう。
投資信託はどこで購入する?おすすめのネット証券
ここからは、投資信託の購入におすすめのネット証券を紹介します。
証券会社名 | 投資信託本数 | 投信積立本数 | 外貨建てMMF | ポイント | NISA | つみたてNISA対象銘柄 |
---|---|---|---|---|---|---|
SBI証券 | 2,709本 | 2,493本 | ○ | Pontaポイント、Tポイント、dポイント | ○ | 183銘柄 |
楽天証券 | 2,657本 | 2,518本 | ○ | 楽天ポイント、楽天証券ポイント | ○ | 181銘柄 |
auカブコム証券 | 1,565本 | 1,484本 | ○ | Pontaポイント | ○ | 171銘柄 |
マネックス証券 | 1,248本 | 1,202本 | ○ | マネックスポイント | ○ | 152銘柄 |
松井証券 | 1,612本 | 情報なし | ○ | 松井証券ポイント | ○ | 173銘柄 |
岡三オンライン | 605本 | 549本 | × | dポイント | ○ | 15銘柄 |
LINE証券 | 33本 | 33本 | × | LINEポイント | △ | 9銘柄 |
(1)SBI証券
証券会社名 | SBI証券 |
---|---|
投資信託本数 | 2,709本 |
投信積立サービス銘柄数 | 2,493本 |
つみたてNISAの銘柄数 | 183銘柄 |
投資信託ランキング | 11種類 |
外貨建てMMF | 米ドル、南アフリカランド、トルコリラ |
ポイント | Pontaポイント、Tポイント、dポイント |
ポイント投資 | 投資信託 |
◯おすすめな人
・とにかく商品ラインナップを増やしたい
・ポイントを使って効率的に投資したい
SBI証券は、9ヵ国の外国株やIPOなどの商品ラインナップが充実しています。
投資信託の銘柄数も多く、投信積立サービス銘柄・つみたてNISA対象の銘柄数ともに業界トップクラスです。外貨建てMMF(※)は3ヵ国の銘柄を取りそろえているため、円安対策もしっかりと行えるでしょう。
(※)外貨で運用される投資信託のこと
また、投資信託の購入・保有によってポイントが貯まる上に、貯めたポイントを再投資に使えます。貯める&使うポイントを3種類から選べるので、投資と一緒にポイ活を始めたい方にも適しています。
(2)楽天証券
証券会社名 | 楽天証券 |
---|---|
投資信託本数 | 2,657本 |
投信積立サービス銘柄数 | 2,518本 |
つみたてNISAの銘柄数 | 181銘柄 |
投資信託ランキング | 23種類 |
外貨建てMMF | 米ドル、南アフリカランド、トルコリラ |
ポイント | 楽天ポイント、楽天証券ポイント |
ポイント投資 | 投資信託、国内株、米国株、バイナリーオプション |
◯おすすめな人
・とにかく商品ラインナップに増やしたい
・普段から楽天ポイントを使っている
・さまざまな商品にポイント投資したい
楽天証券は楽天グループの強みを活かし、ポイントプログラムを充実させています。普段お使いの楽天ポイントを貯められるだけではなく、4種類の金融商品にポイントで投資できます。
商品ラインナップの充実度も業界トップクラスで、投資信託の投信積立サービス対象の銘柄数はいずれも2,500本以上あります。つみたてNISAの銘柄数も、2022年6月時点で180本を超えています。
(3)auカブコム証券
証券会社名 | auカブコム証券 |
---|---|
投資信託本数 | 1,565本 |
投信積立サービス銘柄数 | 1,484本 |
つみたてNISAの銘柄数 | 171本 |
投資信託ランキング | 8種類 |
外貨建てMMF | 米ドル、南アフリカランド、トルコリラ |
ポイント | Pontaポイント |
ポイント投資 | 投資信託、プチ株(単元未満株)の一部 |
◯おすすめな人
・基礎知識を勉強しながら投資にも挑戦したい
・Pontaポイントを効率的にためたい
・ポイント投資で単元未満株を取引したい
auカブコム証券は、三菱UFJフィナンシャルグループの属するネット証券です。比較的新しい証券会社ですが、幅広い商品ラインナップを取りそろえており、ポイントなどのサービス面も充実させています。
最大手に比べると投資信託本数はやや少なめですが、つみたてNISAの銘柄数は業界トップクラスです。3通貨の外貨建てMMFも用意されているため、投資信託での円安やインフレ対策を行うことができます。
また、auカブコム証券は初心者へのサポートとして、コラムで勉強しながら取引ができるメディア「カブヨム」も運営しています。
(4)マネックス証券
証券会社名 | マネックス証券 |
---|---|
投資信託本数 | 1,248本 |
投信積立サービス銘柄数 | 1,202本 |
つみたてNISAの銘柄数 | 152銘柄 |
投資信託ランキング | 11種類 |
外貨建てMMF | 米ドル、南アフリカランド、トルコリラ |
ポイント | マネックスポイント |
ポイント投資 | 暗号資産 |
◯おすすめな人
・米国株や中国株にも投資したい
・投資信託の購入手数料を抑えたい
マネックス証券は、外国株に強いネット証券です。米国株・中国株を合わせた銘柄数は6,000を超えており、コスト面でもお得な取引サービスを打ち出しています。
投資信託の銘柄はそれほど多くありませんが、投信積立やつみたてNISA、外貨建てMMFなどの基本サービスは網羅しています。また、全ての投資信託がノーロード(購入手数料0円)なので、余計なコストを抑えたい方に適しています。
公式サイトの投資信託ランキングでは、「NISA月間売れ筋」や「分配金利回り」などの実用的な機能が用意されています。
(5)松井証券
証券会社名 | 松井証券 |
---|---|
投資信託本数 | 1,612本 |
投信積立サービス銘柄数 | 情報なし |
つみたてNISAの銘柄数 | 173銘柄 |
投資信託ランキング | 10種類 |
外貨建てMMF | 米ドル |
ポイント | 松井証券ポイント |
ポイント投資 | 投資信託(積立) |
◯おすすめな人
・信託報酬の負担を抑えたい
・初めてのネット証券で不安がある
・ポイントを使って投信積立サービスを利用したい
松井証券は創業から100年以上の歴史がある、老舗のネット証券です。
これまでに培った豊富なノウハウを活かして、ユーザーをサポートしています。そのサービスの中でも心強いポイントが、パソコン画面を共有しながらリモートサポートを行ってくれる点です。
基本的な証券サービスは全てそろっており、投資信託は1,612本取り扱っています。
(6)岡三オンライン
証券会社名 | 岡三オンライン(※) |
---|---|
投資信託本数 | 605本 |
投信積立サービス銘柄数 | 549本 |
つみたてNISAの銘柄数 | 15銘柄 |
投資信託ランキング | 10種類 |
外貨建てMMF | 取扱いなし |
ポイント | dポイント |
ポイント投資 | なし |
◯おすすめな人
・投資信託の購入手数料を抑えたい
・取引ツールやアプリにこだわりたい
・暗号資産のトレードも考えている
岡三オンラインは、実店舗型の「岡三証券」が運営するネット証券です。株式の現物取引はもちろん、IPO銘柄やFX、暗号資産なども取り扱っています。
岡三オンラインの特徴は、取引ツール・アプリの充実度が挙げられるでしょう。他ではあまり見られない分析機能や株価指数が搭載しています。
投資信託の取扱本数は多くないものの、投資情報が充実している点が大きな魅力です。
(7)LINE証券
証券会社名 | LINE証券 |
---|---|
投資信託本数 | 33本 |
投信積立サービス銘柄数 | 33本 |
つみたてNISAの銘柄数 | 9銘柄 |
投資信託ランキング | 3種類 |
外貨建てMMF | 取扱いなし |
ポイント | LINEポイント |
ポイント投資 | 株式、投資信託 |
◯おすすめな人
・スマートフォンから手軽に取引したい
・LINE PayやLINEポイントを使いたい
・情報収集や分析、銘柄選びが苦手
LINE証券は、INEアプリから手軽に利用できることから、主に20代などの若いユーザーから人気を集めています。
LINE証券はポイントシステムが充実しており、LINE PayやLINEポイントを使って株式や投資信託を取引できます。すでにポイントを保有している方は、ほとんど資金がなくても投資を始められます。
現時点では全体的に銘柄数が少ないものの、厳選されているからこそ選びやすいメリットもあります。手軽に利用しやすいネット証券なので、投資にハードルを感じている方はぜひ詳細をチェックしてみてください。
円安の影響は仕組みを理解することが大切
投資信託に限らず、為替相場が円安に振れるとさまざまな金融商品に影響が及びます。全ての金融商品への影響を把握することは難しいので、ご自身が運用中の投資信託や興味のある投資信託については「円安になるとどうなるのか」について考えることが大切です。
また、証券会社によっても円安対策は異なるので、本記事を参考にしながらご自身に適した口座開設先を見つけてください。